貨幣の時間価値
定義 事実
今日 1 000 € を受け取るか、一年後に 1 000 € を受け取るか。二つの金額は同じように書かれるが、それでも同じものではない。今日の金額は運用でき、その運用に収益があるかぎり、一年後にはより多くの価値をもつ。逆の操作もできる——あとで受け取るはずの金額を今日手にすること、それが借入れである——そしてその価格の出どころも同じである。すなわち貸し手が手放す収益率であり、求められる利率がそれを下回ることはない。
貨幣の時間価値とは、金額は日付と結びついてはじめて経済的な意味をもち、日付の異なる二つの金額は共通の日付に引き直してはじめて比較できる、という原理である。代替となる用途が正の収益をもたらすかぎり、早く手に入る金額は遅く手に入る金額より価値が高い。
したがって、日付の異なる二つの金額をそのまま足したり引いたりすることは、異なる単位で表された長さを足し合わせるのと同種の誤りである。
この隔たりの起源は時間そのものにはない。代替となる用途が存在することにある。どの運用も何も生まないのであれば、二つの金額は等価であろう。使える資本は用いることができ、その用途が収益を生むからこそ、待つことに費用がかかる。こうして貨幣の時間価値とは、暦に適用された機会費用である。待つことの費用とは、待つことによって手放させられる最良の用途の収益にほかならない。
割引——元本組入れの逆の操作 事実
元本組入れは、金額に (1+i)n を掛けて将来へ運ぶ。ここで立てられる問いはその対称形である。n 期後に手に入る金額 Vn と等価な、今日の金額はいくらか。組み入れれば、ちょうど Vn に戻る金額である。掛ける代わりに割ればよい。
V0=(1+i)nVn
この操作を割引といい、V0 をそのキャッシュフローの現在価値、1/(1+i)n を割引係数という——将来のキャッシュフローに掛ける数である。i が正であるかぎり、この係数は 1 より小さく、期日が遠ざかるにつれて等比的に減っていく。
| 期日(一期あたり 5 %) | 割引係数 | 1 000 € の現在価値 |
|---|---|---|
| 1 期 | 0,952381 | 952,38 € |
| 5 期 | 0,783526 | 783,53 € |
| 10 期 | 0,613913 | 613,91 € |
| 30 期 | 0,231377 | 231,38 € |
したがって元本組入れと割引は、二つの向きから読まれた一つの同じ関係である。一方のあらゆる性質は他方に対応するものをもつ。利率が正であるかぎり、割引係数は利率が高いほど速く減り、きわめて遠い将来のキャッシュフローの現在価値はいくらでも小さくなる。
割引率は機会費用である 事実
割引に用いる利率 i は、割り引かれる金額の属性ではない。それは、検討中の取引に資本が拘束されていなければ振り向けられたであろう、比較可能な最良の代替用途の収益率である。
そこから三つの帰結が導かれる。いずれもしばしば誤解されている。
- 利率は誰が計算するかに依存する。 異なる選択肢をもつ二人は、同じキャッシュフローを正当に異なる利率で割り引き、異なる現在価値に行き着く。これは矛盾ではない。二人が手放しているものが同じではないからである。
- キャッシュフローそのものから読み取れる「真の」利率は存在しない。 利率は論拠を伴う選択であり、その正当化は基準として採られた代替案である。代替案を変えれば結果は変わる。
- 現在価値はこの選択に非常に敏感である。 期間が長いほどなおさらである。係数 1+i が n 乗されるからである。したがって誠実な比較は、利率が動いたときに結論がどう移るかを検討する。
キャッシュフローの列を比べる——正味現在価値 事実
ほとんどの決定は単一の金額ではなく、時期の異なる金額の列にかかわる。最初に支出があり、続いて収入がある。その一つひとつを基準の日付に引き直せば、現在価値は——いまや同質になっているので——足し合わせることができる。支出を負として数えれば、これらの現在価値の合計が正味現在価値(NPV)である。
NPV=t=0∑n(1+i)tFt
ここで Ft は第 t 期の正味キャッシュフローであり、支出であれば負として数える。日付 0 のキャッシュフローは割り引かれない。その係数が 1 だからである。
今日 1 000 € の支出があり、それに対して第 1、2、3 期に 400 € ずつ三回の収入があるとする。5 % の利率では次のようになる。
NPV=−1000+1,05400+1,052400+1,053400=−1000+380,95+362,81+345,54=89,30
NPV は正である。この取引は、今日のユーロで測って、5 % の基準となる運用より 89,30 € 多くもたらす。
同じ計算を 15 % で行えば −1000+347,826+302,457+263,006≈−86,71 となる。NPV は負であり、同じキャッシュフローが不利なものになる。変わったのは、それを比べる相手の代替案だけである。NPV は内在的な良し悪しを測るのではなく、ある基準からの隔たりを測る。
決め手になるのはまさにこの隔たりであって、差引きの総額ではない。実際、割り引かない収入の合計 1 200 € は、どちらの場合も 1 000 € の支出を上回っている。この比較は何も決めない。日付の異なる金額を足し合わせているからである。
基準からの隔たりとして読むからこそ、判断の規則が導かれる。NPV>0 なら、その取引は基準の代替案より好ましい。NPV=0 なら両者は等価である。NPV<0 なら代替案のほうが好ましい。
内部収益率 事実
NPV が利率に依存する以上、問いを裏返して、それをゼロにする利率を探すことができる。その利率が内部収益率(IRR)である。取引と基準の代替案とがちょうど等価になる i の値である。
先の例では IRR はおよそ 9,70 % であり、この値は数値的に解いて得られる。方程式は n 次の多項式であり、4 次を超えると根号による一般の解法はなく、手計算ではそれよりずっと手前で実行不能になる。これに対し、単一の将来キャッシュフローが当初の金額と向き合う場合には、IRR は直接計算できる。i=(Vn/V0)1/n−1 である。その読み方は直接的である。この取引は、9,70 % より低い収益しか生まない代替案すべてより好ましく、それより高い収益を生む代替案すべてに対しては不利である。これが、5 % と 15 % の二つの計算のあいだで観察された反転の点である。
二つの限界を知っておく必要がある。NPV をゼロにすることは、x=1/(1+i) とおいて ∑tFtxt=0 を解くことに帰着する。意味をもつのは x>0 の根、すなわち i>−1 の根だけであり、IRR はそこから i=1/x−1 によって導かれる。キャッシュフローの符号が一度しか変わらないかぎり——支出があり、続いて収入がある——そのような根は存在し、しかも一意である。なお収入の合計が支出を下回れば、IRR は負にもなりうる。符号が何度も変わる場合、方程式は許容できる根を複数もつことも、まったくもたないこともあり、そのとき IRR は一意には定まらなくなる。さらに IRR は利率である以上、取引の規模については何も語らない。小さな金額に対する高い IRR は、大きな金額に対する控えめな IRR よりも生み出す価値が小さいことがある。競合する取引を順位づけるには、金額で表される NPV が引き続き適切な量である。
不確実なキャッシュフローの場合 仮説
これまでの式は、金額も日付も既知であるキャッシュフローを前提としている。将来の金額が不確実になった途端、二つの異なる調整がありうる。キャッシュフローを確率で重みづけすること、そして、安全とされる用途の収益率の上にリスクプレミアムを上乗せして割引率を引き上げることである。この二つの調整は広く実践されている。議論が続いているのはその存在ではなく、その正当化である。
両者は同じ性質のものではない。第一のものは期待値の計算にすぎず、確率が定まりさえすれば十分に定義される。しかし期待値だけで決めることは、すでにリスクへの無関心を前提としている。第二の調整はまさにその仮定を退けるが、それでいて原理から導かれるわけではない。原理はキャッシュフローを共通の日付に引き直せと述べるだけで、利率をどれだけ上乗せせよとは述べない。適切なプレミアムの大きさは、さらには、時間の経過とリスクへの晒され方というこれほど異なる二つのものを単一の利率に担わせることの正当性そのものが、なお議論の的である。したがって不確実なキャッシュフローの割引は取り決めによる慣行とみなすべきであり、その結果は、確実なキャッシュフローについての計算と同じ資格をもたない。
この原理が前提とすること 事実
- 同一の単位。 キャッシュフローは同じ通貨で表され、インフレに対して同質に扱われなければならない。その時々の単位で表されたキャッシュフローは名目の利率、すなわちインフレ調整を受けていない利率で割り引き、一定の購買力で表されたキャッシュフローは実質利率、すなわち (1+i)/(1+π)−1 によって得られる利率——ここで i は名目利率、π はその期間のインフレ率を指す——で割り引く。単純な引き算によってではない。両者を混ぜることは、割引計算で最も多い誤りである。(ここで名目という語は実質に対立する。前の原理で指摘したとおり、この語は別の場面では実効に対立し、そのときは元本組入れの頻度が定められていることを前提とする。)
- 期日ごとに適した利率。 利率が全期間にわたって唯一でなければならない理由はない。期によって異なるなら、係数は連続する係数の積になり、累乗による書き方はその利率が一定である特別な場合にすぎない。
- 明示された日付。 割引には、各キャッシュフローの金額だけでなくその日付を知ることが要る。n は i と同じく計算の一つのパラメータである。
- 実際に利用できる代替案。 NPV は、同じ金額と同じ日付について利用できると仮定された用途と比べている。代替案に上限があったり利用できなかったりすれば、採用した利率はもはや実際に手放しているものを測っていない。
最後に一つ注意。i が $-1$ と 0 のあいだにあるなら、割引係数は 1 を超え、将来の金額は今日の同じ金額より価値が高くなる。したがってこの原理は、貨幣が時間とともに価値を失うと主張しているのではない。日付を欠いた金額は不完全であると主張し、その隔たりの向きは利率の符号によって定まると主張しているのである。
まとめ
金額はその日付を伴ってはじめて意味をもつ。時間に散らばった金額を比べるには、最良の代替用途の利率で (1+i)n で割り、共通の日付に引き直さなければならない。